京町家の改修には、図面どおりには対応できず、また既製品では対応できない場面が数多くあります。
柱の傾きを直す。古い継手を活かす。傷んだ部分だけを補修する。金物を使わず、木と木を組み合わせる——。
こうした一つひとつの「手しごと」が、古い建物の価値を残しながら、これから先も長く使い続けられる住まいへとつないでいきます。
小林工務店は、2025年10月に開催された「中信ビジネスフェア2025」に出展し、私たちが日々の仕事で大切にしている「手しごと」を、施工写真や実寸大の木組み模型などを通してご紹介しました。

なお、「中信ビジネスフェア」とは、地元京都の商品・技術の展示や商談を通して異業種間の交流を図るとともに、ビジネスチャンスにつながる機会創出のため、京都中央信用金庫が主催する商談会です。
今回は、当日ご来場いただけなかった方にも、京町家改修の現場でどのような技術が活かされているのかを知っていただけるよう、展示内容をあらためてご紹介します。
京町家の改修に「手しごと」が欠かせない理由
京町家は、建てられてから長い年月を経た建物です。そのため、柱や梁の状態、建物の傾き、木材の癖、過去の改修履歴など、一棟ごとに条件が異なります。新築住宅のように、図面通りに部材を組み立てれば完成するというわけではありません。
現場で建物の状態を見極め、
*どこを残すのか
*どこを補修するのか
*どのように歪みを直すのか
*どの材料を使うのか
*既存の建物と新しい部分をどう納めるのか
を一つひとつ判断する必要があります。
だからこそ、京町家の改修では、職人が建物と向き合いながら手を加えていく「手しごと」が重要になります。
今回の中信ビジネスフェアでは、その技術や考え方を、実際の施工事例を通してご紹介しました。
「小林工務店の手しごと」を伝えたブース
今回のブースのテーマは、「小林工務店の手しごと」。正面には、大工が鉋(かんな)で木材を削る写真を壁一面に大きく掲示しました。木に向き合う職人の真剣な表情、手の動き、そして削り出された鉋屑まで写し出された一枚です。

さらにブースの頭上には、鉋屑でつくった大きなポンポンをディスプレイ。来場者の皆様には、手のひらサイズの「かんなくずポンポン」をプレゼントしました。

「いい香りがする」
「木のぬくもりが伝わってくる」
そんな声とともに、木の素材感を楽しんでいただくことができました。
職人の技術を説明するだけではなく、木の香りや手触りまで感じていただくことで、「手しごと」の魅力を身近に感じてもらえる展示を目指しました。
京町家改修のリアルを施工写真で紹介
ブースのメイン展示となったのは、2025年8月に工事が完了した「片山文三郎商店・京町家店舗改修工事」の施工写真と説明パネルです。

京町家の改修は、古くなった建物をすべて新しいものに取り替える仕事ではありません。
そこに残されているものの価値を見極め、
「残すべきものを残し、傷んだ部分には適切な手を加えながら、これから先も長く使い続けられるよう整える」
ことが大切です。
今回の展示では、そんな改修の考え方を、実際の現場写真とともにご紹介しました。
【銅製の樋】
段違いの屋根が出会う場所にある、木製の持ち送りと銅製の雨どいの取り合いです。
雨どいは古くから木や竹などの材料が使われてきました。銅製の樋が広く普及し始めたのは江戸時代に入ってからといわれています。
【根継ぎ(ねつぎ)】
柱の足元(柱脚)が腐朽していたため、傷んだ部分を取り除き、「追掛継(おっかけつぎ)」によって補修しました。
写真は、防蟻・防腐のためにホウ酸を塗布している様子です。
柱をすべて交換するのではなく、使える部分を活かしながら必要な部分だけを補修する。これも、古い建物を残していくための大切な技術です。
【揚げ舞(あげまい)と歪み突き(いがみつき)】
長い年月によって沈み、傾いてしまった床や柱を、ジャッキやウインチなどを使って元の高さや垂直に戻す工程です。
建物への負担を見極めながら、少しずつ調整していく非常に繊細な作業です。
同時に基礎の補強なども行い、建物全体の状態を整えていきます。
【車知栓継ぎ(しゃちせんつぎ)】
釘などの金属金物を使わず、木と木をしっかりと組み合わせる伝統的な木組みです。
今回は、すだれ掛けの上部に用いています。
【自在角面取り鉋(じざいかくめんとりかんな)】
鉋には、一般的な平鉋だけでなく、加工する形状や材に合わせたさまざまな種類があります。
場合によっては、職人が加工する材に合わせて鉋そのものを製作することもあります。
【唐紙の襖表】
片山文三郎商店の1階に現存する唐紙の襖表です。
正倉院にある「麟鹿草木夾纈屏風(りんろくくさききょうけちのびょうぶ)」に似た文様ですが、現存する型がなかったため、版木から新たに復元・新調しました。
【御影石の延石と木材】
御影石の延石と木材、それぞれ新旧の素材が交わる接合部です。
大工と石工、それぞれの技術と意匠が美しく調和しています。
触ってわかる、伝統技術。「継手・仕口」の実寸大モデル
今回の展示で、特に多くの方に興味を持っていただいたのが、実寸大の「継手・仕口」の模型です。
京町家の改修では、目に見える仕上げだけでなく、建物の構造を支える見えない部分にも多くの手しごとが使われています。その代表的なものが、木材同士を接合する「継手」と「仕口」です。
「継手」とは、同じ方向に延びる部材同士を接合する技術です。柱や梁などを延長する際に用いられます。
一方の「仕口」は、異なる方向から交わる部材を接合する技術。柱と梁、梁と桁などの接合に使われ、建物の構造を支える重要な役割を担っています。
言葉だけではなかなかイメージしにくいため、今回は実際に手に取って組み外せる実寸大モデルを展示しました。
展示した3つの継手

A|二方差し(にほうざし)
柱に対して左右から横架材を差し込む伝統的な木組みです。
柱を貫いて横架材を連続させるため、町家の2階床組部分などによく使われています。
B|追掛大栓継(おっかけだいせんつぎ)
縦引きの鋸の発明によって鎌継を二つに割ることで開発された継手です。
強度が必要な部分に用いられる、非常に強固な継手の一つです。
C|腰掛鎌継(こしかけかまつぎ)
古くから使われてきた継手の一つです。
接合部の先端を魚の頭部のような「鎌」の形に加工し、互いを噛み合わせます。
構造だけでなく、意匠的に重要な部分にも用いられます。

実際に来場者の方に模型を組み外していただくと、
「知恵の輪みたいですね」
「吸い付くようにぴたりとハマる!」
「金物を使わずに、こんなに頑丈になるんですね」
といった驚きの声が聞かれました。

写真や文章だけでは伝わりにくい木組みの精度や仕組みを、実際に手で触れて体験していただけたことは、今回の展示の大きな成果でした。
効率化が進む今だからこそ、大切にしたい「手しごと」
現在の建築では、工場で部材を加工するプレカットや既製品の活用が進み、施工の効率化や品質の均一化が図られています。こうした技術は、現代の建築にとって非常に重要なものです。
一方で、100年近くの時間を刻んできた京町家の改修現場には、同じ条件の建物が一つとしてありません。建物の傾き方も違えば、柱や梁の傷み方も違います。使われている木材の種類や癖、過去の改修の跡、周囲の環境もそれぞれ異なります。
だからこそ、
「この建物には、どう手を入れるのが一番いいのか」
を現場で見極める職人の経験と技術が必要になります。
完成すると見えなくなってしまう構造部分にも丁寧に手をかける。古いものをただ新しくするのではなく、使えるものを活かしながら、必要なところに必要なだけ手を加える。それが、小林工務店が創業以来大切にしてきた「手しごと」です。
「手しごと」を通して、建物の未来をつなぐ
今回の中信ビジネスフェアには、建築関係の方だけでなく、町家や木の家に興味をお持ちの方、ものづくりに関心のある方など、さまざまな方にお立ち寄りいただきました。
「こういう仕事は、やはり人の手が大事ですね」
「写真から現場の緊張感が伝わってきます」
「木の香りがして、ほっとしますね」
そんな声をいただきながら、私たち自身も、普段は現場で当たり前のように行っている仕事の価値を、あらためて見つめ直す機会となりました。
また、フェアの後にも、お客様から「あの継手の写真をもう一度見たい」「京町家の改修についてもっと知りたい」というお声も多くいただきました。
ご来場いただいた皆様、本当にありがとうございました。建物を直すことは、単に古いものを新しくすることではありません。そこにあるものを活かしながら、次の時間へつないでいくこと。そのために必要な手間を惜しまず、一つひとつ丁寧に建物と向き合うこと。それが、私たち小林工務店の考える「手しごと」です。
京町家の改修・リノベーションをご検討の方へ
小林工務店では、京町家の改修・リノベーションをはじめ、伝統工法を活かした木の家づくり、耐震補強など、建物に関するさまざまなご相談を承っています。
たとえば、
□ 所有している町家の状態を一度見てほしい
□ 古い町家の面影を残しながら、現代の暮らしに合わせて改修したい
□ 相続した町家をどのように活用すればよいか悩んでいる
□ 古い建物の耐震性や傷み具合が気になっている
といったご相談にも対応しています。
建築だけでなく、不動産・相続に関するお困りごとまで、ワンストップでサポートできる体制を整えています。
「古いから建て替える」のではなく、「残せるものを活かし、次の世代へつなぐ」。
京町家のことで気になることがございましたら、創業元治元年の小林工務店までお気軽にお問い合わせください。