BLOG

隣家とのトラブル!木の枝が越境してきたら切ってもいい?

皆さんはお花見を楽しまれましたか?今年は桜の開花も早く、木々の色も既に新緑の鮮やかなグリーンへと移り変わろうとしていますね。季節は春から夏へ、植物がぐんぐんと成長していく様子をウキウキした気持ちで目にしておられる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
しかし、同じ“ぐんぐんと成長”でも、タイトルにもあるように、隣家から越境して伸びてくる枝葉にお困りの方にとっては、それどころではありません。その成長とともに憂鬱な気持ちが増すばかりです。
困っているなら切ってしまえば解決するじゃない!とお思いの方もいらっしゃるかもしれません。とはいえ、“隣から伸びてくる枝は、その木の持ち主しか切ることができない”という民法上のルールがあり、こちらが困っているからといって勝手に切ることが、これまではできなかったのです。
そのため、
「隣家から伸びてきている枝が気になるものの、ご近所トラブルになるのも嫌なので、なかなか言い出すことができない。」
「お願いしようにも、持ち主が不明で連絡が取れない。」
「お隣さんにお願いしたのだけれど、一向に対応してくれず何年も過ぎている。」
といった具合に、悩みを抱えたまま長年困っておられる方が少なくないのです。

しかし、令和5年4月1日施行の改正民法により、枝の切除に関するルールが大きく変わり、隣家からはみ出してきた木の枝を切り取ることができるようになりました。
民法の改正によってどのようにルールが変わったのでしょうか。
一緒に確認してみましょう。

民法改正前は・・・

これまでの民法では、土地の境界線を越えた“木の根っこは切り取ることができる”ものの、“枝の場合は木の所有者に切ってもらわなければならない”あるいは、自分で切るにしても“所有者の同意を得なければならない”というルールになっていました。

改正前の民法第233条
1 隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。
2 隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、その根を切り取ることができる。

なぜ枝はだめで根は切除していいのか、と疑問に思う方もいらっしゃるかもしれません。その解釈は有識者の間でも多岐にわたるようです。しかし、地面を掘り起こせば必ずと言っていいほど根が出てきますし、その根の所有者をイチイチ突き止めるのは現実的ではありません。そう考えると、このように規定されたのも頷けるのではないでしょうか。
一方の枝に関しては、旧法では少々面倒なことになるケースがありました。たとえば、竹木の所有者を見つけることができない場合や、見つかっても切除しようとしてくれない場合です。その場合、枝を越境された土地の所有者は、まず①枝の切除請求訴訟を起こさなければなりません。そして、②裁判で勝った上で、③強制執行の申立をし、④竹木の所有者の費用負担で第三者に切除させる(=代替執行)という手続きを踏まなければならなかったのです。
しかし、この一連の手続きは一般の方には遂行が難しく、弁護士等に依頼することになります。そのため、多くの手間と時間と費用が必要となり、越境された側の負担が大き過ぎました。
そこで、このような状況を改善するため、今回の改正民法第233条(竹木の枝の切除及び根の切取り)が、令和3年4月に公布、令和5年4月から施行される運びとなったのです。

改正されてどう変わった?

それでは、改正後どのように変わったのでしょうか。
条文は以下の通りで、太字の部分が変更または追記されました。(2項と3項の2つが追加され、旧2項は新4項に改編)

改正後の民法第233条
(竹木の枝の切除及び根の切取り)
土地の所有者は、隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる。
2 前項の場合において、竹木が数人の共有に属するときは、各共有者は、その枝を切り取ることができる。
3 第一項の場合において、次に掲げるときは、土地の所有者は、その枝を切り取ることができる。
 一 竹木の所有者に枝を切除するよう催告したにもかかわらず、竹木の所有者が相当の期間内に切除しないとき。
 二 竹木の所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき。
 三 急迫の事情があるとき。

4 隣地の竹木の根が境界線を越えるときは、その根を切り取ることができる。

詳しく見ていきましょう。
まず、1項にあるように、“まずは竹木の所有者に対して枝を切除するように求める”のが原則となっていることは変わりません。それを経て、なおかつ2項や3項の特則を満たすとき、越境された側による切除が認められるので注意が必要です。
また、土地の所有者に限らず、借りている土地に枝が越境してきた場合も、枝の切除を請求したり、場合によっては自分で切除したりできます。

次に、2項として「共有の竹木の取り扱い規定」が追加されました。
土地は、共有名義になっていることがよくあります。旧法において、このようなケースで越境してきた枝を切るには、基本的に“共有者全員の同意が必要”と考えられていました。
一方、改正法では「竹木が数人の共有に属するときは、各共有者は、その枝を切り取ることができる」となりました。よって、越境された側は、竹木の所有者のひとりに枝の切除を求めればよいことになったのです。
なお、法務省ガイドライン(4ページ)によると、以下も可能となっています。
・越境された土地の所有者は、竹木の共有者の一人に対しその枝の切除を求めることができ、その切除を命ずる判決を得れば、代替執行(民事執行法 171条)が可能。
・竹木の共有者の一人から承諾を得れば、越境された土地の所有者などの他人がその共有者に代わって枝を切り取ることができる。

さらに、3項として「越境された側が切除できる規定」が追加されました。
旧法では、切除を求めても竹木の所有者がこれに応じない場合、越境された側の対応等に関して定めがありませんでしたが、改正法では特則を設け、これを満たせば越境された側が枝を切り取ることを認めているのです。
まず一号により、竹木の所有者が相当の期間内に切除しないときに切り取ることができるようになりました。ここでいう“相当の期間”とは、枝を切除するために必要とされる期間であって、事案にもよりますが、基本的には2週間程度と考えればよいようです。(法務省ガイドライン(4ページ)参照)
次に二号により、竹木の所有者や又はその所在が分からないときにも切り取ることができるようになりました。つまり、隣地が所有者不明の空き地や空き家であっても対処できるようになったので、これまでどうしようもないとあきらめていた方にも道が開けたといえるでしょう。
そして三号により、急迫の事情があるときにも切り取ることができるようになりました。ここでいう“急迫の事情”とは、例えば、台風などの災害により枝が折れて隣地に落下する危険が生じている場合や、地震により破損した建物の修繕工事で足場を組むために隣地から越境した枝を切り払う場合、などが想定されます。

切除する際の隣地の使用が可能に

枝を切除する際の隣地の使用に関しても、民法第209条が改正(令和5年4月1日施行)されました。枝を切るために、隣地の所有者の承諾を得ることなく隣地に立ち入ることができるようになったのです。ただし、あらゆる場合に立入ることができるのではなく、枝を切るために必要な範囲内で、かつ、隣地の所有者や現に隣地を使用している人にとって損害が最も少ない日時、場所及び方法を選ばなければなりません(改正民法209条1項・2項)。
したがって、わざわざ隣地に立ち入らなくても枝の切除が可能であれば、隣地を使用することはできないと考えられます。逆に、隣地に立ち入らないと安全に切除できないといった事情があれば、隣地の使用が認められる方向になると考えられます。
また、隣地に現に住んでいる人がいた場合には、その人の承諾を得る必要があります(改正民法209条1項ただし書)。
そして、隣地を使用する場合は、原則として、事前に、隣地の所有者及び現に隣地を使用している人に対し、隣地を使用する目的、日時、場所及び方法(例えば、枝を切るために隣地のどこに立ち入る予定か)を通知しなければならないとされています(改正民法209条3項)。 しかし、事前に通知することができないやむを得ない事情(例えば、早急に枝を切除しなければ自分の建物が損傷するおそれがあったり、調査をしても隣地の所有者が見つからなかったりする場合等)があるときは、使用を開始した後、遅滞なく通知しなければならないとされています(改正民法209条3項ただし書)。

切除する際の確認事項

枝の切除に関するルールについて、その他にも確認しておきたい項目があります。
Q&A方式でまとめてみましたので、合わせて確認しておきましょう。

Q.法改正前から存在している枝にも適応できるのでしょうか?
A.できます。法律の改正が施行される4月1日より前、つまり令和5年3月31日以前から存在していた枝にも新しい法律は適用されます。

Q.枝を切るためにかかった費用は誰が負担するのでしょうか?
A.切除費用に関しては、不法行為(他人に損害を与えたこと)や不当利得(他人に損失を与えたこと)を理由に、通常は竹木の所有者に対し請求することができます。ただし、費用負担については改正法でも明文化されていないので、事案ごとに協議や調整を行う、ということになっているようです。

Q.切った枝は誰が処分するのでしょうか?
A.切った枝は切除した人が所有権を取得することになりますので、その処分も切除した人が行うことになります。取得する以上は、自分で処分しなければいけないということですね。

Q.枝はどこまで切っていいのでしょうか?
A.何でもかんでも切っていいわけではありません。枝の越境による実害がない場合は、切除を求めると権利の濫用(民法1条3項)になる可能性がありますので、越境された側にも、一定の慎重さが求められます。また、隣地との境界が不明瞭な場合は、先に境界を確定しなければ越境範囲を明らかにできません。筆界確認は費用がかかり、かつ容易に決着しないケースもありますので、事前に境界を明確にしておくべきでしょう。

ご近所トラブルになる前に

いかがでしたでしょうか。
越境している枝の切除に関しては、今回の民法改正後も原則として“所有者に断りなく切り取れない”ことに変わりはありませんが、越境された側が行動を起こし易くなったという点は、困っている当事者にとって朗報と言えるでしょう。
しかしその分、これまで以上に隣家からのクレームが増え、樹木の所有者側もその対応を求められるケースが増えると考えられます。クレームが入った時には放置せず、早急に対処することもちろんですが、そうならないためにも、まずは所有敷地内の竹木に関しては、定期的に確認や剪定を行い、しっかりとした自己管理を行いましょう。仮に越境がなかったとしても、管理不全の状態では近隣に悪い印象を与え、良好なご近所付き合いを阻害してしまいます。
また、空き家を相続した場合も同様で、建物を放置したままの状態で植栽が隣家に越境し、ご迷惑をかけて近所迷惑からトラブルに発展しないとも限らないので、今まで以上にきっちり管理するようにいたしましょう。

とはいえ、
「庭木のメンテナンスといっても、どこから手を付けたらいいのか分からない…」
「メンテナンスしたいがどこに頼んでいいのか分からない…」
とお悩みの方も多いはず。
そのような時は小林工務店へご相談ください。当社には一級造園技能士の資格を持った建築担当が在籍しておりますので、庭木の手入れはもちろん、外構工事全体に至るまで対応が可能です。
(当社発行のNewsletterNo.14 令和5年春号を参照ください)
さらに、不動産部と建築部がひとつになっている小林工務店だからこそ、空き家に関する定期的な確認や管理・報告から、メンテナンスや改修工事、不動産の相続相談に至るまで、すまいをワンストップサービスでサポートいたします!
お客様の状況に応じた様々な提案が可能ですので、是非ご相談ください。

関連記事一覧

最近の記事