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相続した土地が借地権だった。そんな時は…

以前のブログ「相続した空き家、そのまま放置していませんか?」でも紹介したように、空き家問題は全国的な社会問題となっています。亡くなる人の多くが 80 代、90 代で、その子どもの大半がマイホームを持っているため、親の住まいは“空き家”になってしまうケースが多いのが現状です。そして、この“空き家”の中には土地が“借地権”であるものも含まれています。建物は自分のものだったが、土地は地主から借りていた家を相続するケースです。

実際、弊社が加盟している財産ドックのレポート(№44/9月1日発行)によると、この半年ほどで「親が亡くなったので、借地権を売却したい」という相談が 3 件あったそうです。もしもあなたが相続した土地が借地権だったら、どうしたらいいでしょうか?そもそも、借地権は売却できるのでしょうか?

今回は借地権について改めて確認し、相続時の参考にしていただこうと思います。

「借地権」とは?

借地権とは、「建物を建てるために地代を払って土地の所有者から土地を借りる権利」のことをいい、法律の違いによって「借地借家法に基づく借地権」と「民法上の借地権」があります。
前者の「借地借家法に基づく借地権」は、借地借家法上の概念で、「建物の所有を目的とする地上権または土地賃借権」(借地借家法2条1号)のことをいいます。“地上権”の場合は自由に売却や転貸することができますが、“土地の賃借権”の場合は、第三者に建物を売却する時は地主の承諾が必要で、現在のところ一戸建ての場合、実際に多くあるのは賃借権の方になります。

一方、後者の「民法上の借地権」は、建物所有を目的としない土地の賃貸借で、月極駐車場や資材置き場などがこれに該当し、民法の規定が適用されます。
今回は「借地借家法に基づく借地権」(以後「借地権」)についてさらに詳しく見ていきたいと思います。

借地権の種類

借地権には大きく分けて2種類あり、「借地法(旧法)」と平成4年8月1日に施行された「借地借家法」が存在します。旧法は借地人の権利を守る意味合いが強く、土地の返還が難しいなど地主側に不利な面がありました。そのため地主側との間にトラブルが多く発生し、次第に借地権の取り引き自体が少なくなってきたため、双方の便宜をはかる為に改正したのが新法の「借地借家法」となります。

■借地法(旧法):
平成4年8月より前から土地を借りている場合は「借地法」(旧法)が適用されます。
契約期限は決まっていますが、更新することにより半永久的に借りることができます。(借地権者側が法律上強く守られており、地主側の更新拒絶、建物明け渡し、更地返還などは正当事由なしでは認められていません。)
旧法では、建物を堅固建物(石造、土造、レンガ造、コンクリート造、ブロック造、鉄筋コンクリート造等)と非堅固建物(⽊造等) の2種類に区分しています。
借地権の存続期間は、堅固建物の場合、あらかじめ当事者間で取り決めのなかった場合は60年(最低30年)、更新後の期間は30年、非堅固建物の場合、あらかじめ当事者間で取り決めのなかった場合は30年(最低20年)で更新後の期間は20年となっています。この期間中に建物が朽廃した時には借地権は消滅します。また、契約時に建物の種類・構造を特に定めなかった場合には、非堅固建物の所有を⽬的とするものとみなされます。(下表参照)

■借地借家法:
平成4年8月以降から借り始めた場合「借地借家法」が適用されます。
借地借家法には5つの種類があり、それぞれの特徴は以下の通りです。

普通
借地権
契約期限は決まっているが、旧法借地権のように法定更新することにより半永久的に借りることが可能です。 存続期間は構造(堅固建物・非堅固建物)に関係なく当初30年、合意の上の更新なら1回目は20年、以降は10年となっています。更新の際、地主側は正当な事由がなければ更新を拒むことができません。一方借り主側は更新を請求するか土地の利用を継続するだけでも更新が可能となってしまうため、地主側に不利な点が多いタイプの借地権とも言えます。
定期
借地権 (一般定期借地権)
借地借家法で新設された借地権です。 契約期間は50年以上。契約期間が満了すれば、更新することなく土地は更地にして地主に返還されます。 用途の制限はないのですが、“定期借地権付き戸建て住宅”や“定期借地権付きマンション”のように主に住宅やマンションなどに使われています。この借地権が利用されているケースは意外と少なく、全国的には8万戸未満の例しかありません。 地主側は必ず土地の返還を得られるので、安心して土地を貸すことができます。長期間使わない土地をこの定期借地権契約で貸すことで、土地の返還を確約しながら地代収入を長期的に得られます。
事業用定期借地権借地借家法で新設された借地権です。 事業用(店舗や商業施設等)で土地を借りる場合に限定され、居住を目的にした建物はアパートやマンションであっても建築できません。例えば路面店や商業施設、規模の大きな開発事業などで土地を貸す場合に用いられることが多い借地権で、割りと浮き沈みの業態であるコンビニ・ファミレス・パチンコ屋・飲食店などを建てる際に利用される傾向があります。 契約期間は10年以上50年未満で、契約終了後は更地にして返還されます。土地の上に建つ物件が大規模商業施設などであれば、高額な地代を得ることも可能です。
建物譲渡特約付借地権借地借家法で新設された借地権です。 契約期間は、30年以上。用途の制限がなく、住宅でも事業用建物でも建築が可能です。契約期間の満了時に、地主が借地上の建物を買い取って借地権を消滅させるのが特徴です。他のタイプの借地権では、土地を地主に返還するときに建物を壊して更地にする必要がありますが、建物譲渡特約付借地権では更地にする必要がありません。 地主は借地だった土地に建てられた建物をそのまま利用できます。住居が残っていればそこに住むことも可能ですし、アパート等の事業用建物が残っていれば経営をすることもできます。 更地の方が土地としての価値は高いのですが、いちいち更地にするとどうしても経済的な損失が発生します。契約期間が終了して土地を返還されたときに建物を有効活用したい場合には、この建物譲渡特約付借地権の利用を検討しましょう。
一時使用目的の借地権工事の仮設事務所やプレハブ倉庫等で一時的に土地を借りる場合に用いられます。建物を建てるのではなく更地のまま、単に一時的な資材置場として土地を利用する場合にもこの借地権が使われることもあります。

このように、現存している借地権には新旧2種類ありますが、当初、旧法借地として契約したものは、更新などでも新法に自動的に切り替わることがない為、今現在でも旧借地法においての契約が多く、旧法と新法が混在している状況になっています。

また、旧借地法から新法に切り替えるには契約自体を新たに取り交わさなければならないため、現状の土地賃貸借契約の状況によっては注意が必要です。借地権付きの家を所有していたり、相続したりする場合は、今⼀度、契約書の確認などを行い旧法と新法のどちらの契約になっているのか確認をしておくといいでしょう。

借地権の特徴

それでは、借地権には具体的にどのような特徴があるのでしょうか。
以下にその特徴を挙げてみました。

  1. 土地の権利は地主にある:
    土地の持ち主のことを「地主」といいます。地主から借りた土地に建物を建てた場合、建物の権利は借りた側にありますが、土地の権利は地主のものです。
  2. 地主に対して地代を払う:
    借地の場合、土地を借りた「借地人」が地主に対して地代を払います。
  3. 建物を無断で売却することができない:
    借りた土地に建物を建てた場合、地主の許可なく売却することはできません。
  4. 建て替えは事前に地主へ連絡する:
    建物を建て替える場合は、地主に連絡が必要です。
  5. 更地にして地主に土地を返還する
    借地には契約期間があります。契約期間が満了し、契約を更新しない場合であれば、土地を更地にして地主に返却します。

借地権には、「他人の土地でありながら、半永久的に居住することが可能になる」というメリットがある一方で、契約の更新や家を手放す時に地主の許可が必要になるなど「買った土地に比べて土地や建物に対する自由度が低くなる」といったデメリットもありそうです。
これら借地権の特徴を、メリットとデメリットに分けてさらに詳しく見ていきましょう。

借地権のメリットとデメリット

〇借地権のメリット:
 ・土地に対する固定資産税、都市計画税の負担がいらない (=地代で負担していることにはなる)
 ・特に借地法(旧法)の場合、法律に守られており半永久的に借りられる
 ・借地権付きの建物を購入する場合、所有権付きより安く手に入る
 ・借地権付き建物として借地権の権利を売却する事も出来る

借地権は地代がかかるものの、土地を購入するのに比べると割安です。地域ごとに相場が異なるため一概にはいえませんが、借地を借りるだけなら買うよりも6~8割ほど割安となります。
土地と建物がセットとなる戸建ては取得するだけでも、莫大なコストがかかります。街中であればより高嶺の花となってしまうかもしれません。しかし、借地権付きの建物であれば比較的安く購入可能になりますので、予算が限られているという方は借地権という選択肢はいかがでしょうか。所有権と比べると2~4割ほど安くなるからこそ、検討する価値は十分にあるといえそうです。

また、住宅を取得していると、土地や建物に固定資産税がかかりますが、借地権がある土地の建物には、土地に対する固定資産税と都市計画税がかかりません。そのため、土地も建物も自分で購入した物件よりも税金を安く抑えられることがメリットです。ただし、これはあくまでも土地に対する税金のみとなります。建物自体は自身が所有するものなので、建物に対する固定資産税や不動産取得税などは必要です。すべての税負担がなくなるわけではないため、正しい理解が重要となります。

△借地権のデメリット:
 ・地代の負担がある
 ・土地が借主の所有物にはならない
 ・地代の値上げや更新時には更新料が必要な場合がある
 ・建物を売却する際には地主の承諾がいる(譲渡承諾料が必要)
 ・増改築の際、地主の承諾がいる(承諾料が必要な場合も)
 ・借地権は第三者に売却するのがむずかしい
 ・借地権付きの建物の場合、金融機関の担保評価が低くなる

せっかくマイホームを持っても、自由が少なくなることが借地権のデメリットです。
土地に対する固定資産税や都市計画税がかからないものの、地代の負担があり、どんなに地代を払っても借りている土地は自分の所有物にはなりません。建物の売却や家の増築をするときは地主の承諾が必要ですし、承諾料が必要なケースもあります。

また、借地権付きの建物の場合、金融機関の担保評価が低くなります。その土地を所有しているのは契約者本人ではなく地主だからです。そのため、所有権と比べると借地権はどうしても担保評価が低くなってしまい、融資が受けにくいという状況にもなりかねません。近年は融資のハードルも低くはなってきたものの、住宅ローンによっては審査の段階で落とされてしまうこともありますので、住宅ローンを活用する場合は特に注意が必要です。

上記のような理由から、借地権の土地の物件は、所有権の土地の物件に比べて資産価値が低くなってしまい、好条件が揃っていても買い手を探すことが困難です。借地権の物件を売却するときは、デメリットを上回るメリットが必要とされます。

借地権の土地を相続したら

このように、借地権に関しては借地権者にとって不都合なことが多く、多くの借地権者が悩みを抱えているのが現状です。もしも相続した土地が借地権だった場合、どのようなことに注意しなければならないでしょうか。相続時のポイントを以下にまとめてみました。

■借地権も相続の対象となる
借地上に建っている建物などの遺産は相続の対象ですが、借地権自体も相続の対象です。 借地権は被相続人の遺産にあたるので、被相続人が亡くなって相続が発生した場合は、相続人に承継されます。 あくまで相続なので、借地権を相続するにあたって地主に許可を得る必要はなく、承諾料を支払う必要もありません。

借地権の賃借料や賃借期間などの契約内容も、相続によってそのまま相続人に引き継がれます。 なお、相続ではなく遺贈(遺産を無償で譲与すること)によって、相続人以外の第三者に借地権を移転する場合は、地主の許可を得たうえで、契約を変更する必要があります。

借地権の相続人が複数いる場合は、誰が相続するのか、遺産分割がされるまでに発生する地代等の費用を誰が負担するのかなど、相続人同士でトラブルになることもあるので注意が必要です。誰が借地権を相続するかを話し合っており、借地権の相続人が決まっていない場合でも、賃借料は発生します。 遺産分割協議が終わらないからといって、借地権の賃借料を滞納してしまった場合は、地主に契約を解除されてしまう可能性もあります。相続が開始してから相続人が決まるまでの賃借料については、相続人が全員で負担しますので、例えば、ひとまず相続人の1人が賃借料を支払っておき、遺産分割において清算する、という方法とるのも良いかもしれません。
(借地権は相続だけでなく、生前贈与も可能です。生前贈与を行うと贈与税が課税され、建物の名義変更のための登記費用や、地主に払う名義変更承諾料が必要になります。)

■借地権の相続の手続き
借地権を相続する場合の手続きは、一般的にはあまり手間がかかりません。借地権を相続した場合は地主に連絡をして、相続が発生したことと、誰が借地権を相続したのかを知らせておくくらいです。ただし、借地権自体の手続きは別として、借地上の建物についてはきちんと相続登記をしておくのがおすすめです。

例えば、相続によって建物の所有権と、建物が建っている土地の借地権を相続した場合について考えてみましょう。借地権については地主への連絡くらいで手続きは済みますが、借地上の建物については相続登記による名義変更をすることが大切です。借地権について登記をしていなくても、借地上の建物について登記をしておけば、借地に関わってくる第三者に対して権利を主張できるからです。

■借地権は売却可能
相続した借地権は通常の財産と同じ様に売却することができ、地主の許可を得れば、第三者に売却することも可能です。(その場合、譲渡承諾料(=承諾料の相場は借地権価格の10%)の支払いが必要となります。)ただし、借地権の住宅ローンの取り扱い金融機関が限られる等の理由で、一般個人への売却は難しいのが現状で、実際には
(1)地主に買い取ってもらう、
(2)地主と協力して底地と借地権の同時売却(所有権として売却)
(3)不動産業者、建売業者等に買い取ってもらう
などの方法をとります。

借地は元々、地主の所有物ですので、相続により不要になった借地権を買い戻してもらうのは自然な考えです。このときは地主に相談・交渉に行くことになりますが、もし地主も借地権を買い戻したいと思っているときにはスムーズに進むことが多いです。
売却条件のすり合わせでは、借地上の建物は現状のまま渡すのか、解体して更地に戻して渡すのかなどを決めていきます。 そして条件をすり合わせたあとにそれらを盛り込んだ売買契約を結び、決済・引き渡しを行います。
流れとしては一般的な不動産を売却するときと変わりません。

■建物を賃貸に出す
借地上の建物は、せっかく親が残してくれた財産です。賃貸に出して家賃収入を得ることも、その財産を活かす手段の一つです。
ただ、それにはリフォームや建て替えにはそれなりの費用が発生する(工事費用以外に、借地上の建物を建て替えする際には地主に対して建替え承諾料の支払いが必要になります)こと、毎月の地代の支払う必要があること、土地の固定資産税は借地なのでかかりませんが建物の固定資産税は支払う必要がありますので、それらの点も含めた検討が必要です。

今後、相続が想定される借地や借地上の建物がある場合は、相続される親族間であらかじめ方針を決めておき、相続の手続きが必要となった早い段階でご相談いただくことをお勧めいたします。
ちなみに、冒頭で述べた財産ドックのレポートでは、相談者 3 組のうち 2 組は借地権を売却して現金で分けることを選択し、1 組は賃貸にするのか、建替えて孫が使うのかを検討するそうです。

当社ではこれまでにも、「普通借地権設定契約」と、付随する建物の「定期建物賃貸借契約」を同時締結の実績があり、さらに「株式会社 財産ドック」の「京都上京センター」として、その全国ネットワークのノウハウを活かしたサポートが可能です。
「土地活用」「相続対策」「その他の財産管理」など、皆様の財産を守り育てていくことについてお困りの際には、ぜひ当社にご相談ください。

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