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自然災害に考えた土地選びや住まいづくりを ー「ハザードマップ」の活用法

台風シーズンの到来とともに、令和4年9月には台風14号と15号が相次いで日本に上陸しました。日本を縦断した台風14号は、史上最強クラスを保ったまま九州地方に上陸し、宮崎県内では線状降水帯の影響により冠水被害が発生しました。次の15号では、特に静岡県の広い範囲で猛烈な雨が降り続き、「記録的短時間大雨情報」が県内各所で連続して発表されました。静岡県内の6時間雨量の最大値は、過去の統計の200%を超えた所もあったようです。また、東北地方では8月の記録的な大雨となり、「記録的短時間大雨情報」や「緊急安全確保」が発表され、山形県、宮城県、青森県、秋田県で数々の被害が発生しました。

近年頻繁に耳にするようになった「数十年に一度の記録的短時間大雨情報」や「大雨特別警報」。
本来なら、数十年に一度の大雨を想定した時に発表される警報のはずが、最近では日本各地で頻繁に発表が相次いでいます。そのため、想定を超える被害により過去の経験に基づいて避難の判断や行動が役に立たなくなることさえ考えられます。

そこで活用するのが、「自分が住んでいる」あるいは「これから住む予定」の土地が、どのような自然災害の危険があるのか、また、被災した場合にどの程度の被害をもたらすのかを確認できる“ハザードマップ”です。最近では、物件探しの際にこのハザードマップも合わせて確認されているお客様も増えておりますが、意外と知られていないのが現実です。NTTドコモ モバイル社会研究所が令和3年1月に実施した調査では、ハザードマップを知っている人は38.6%と、実に6割以上の人がハザードマップを知らないという結果でした。

そこで今回は、この“ハザードマップ”について、その種類や表示内容、情報の入手先などを紹介させていただき、今後の暮らしや物件探しのお役に立てていただければと考えております。

「ハザードマップ」とは?

国土地理院HPによると、ハザードマップは『一般的に「自然災害による被害の軽減や防災対策に使用する目的で,被災想定区域や避難場所・避難経路などの防災関係施設の位置などを表示した地図」とされています。防災マップ,被害予測図,被害想定図,アボイド(回避)マップ,リスクマップなどと呼ばれているものもあります。』と説明されています。
つまり、台風や大雨、地震といった災害が起こったときに、自分の住んでいる地域や会社周辺でどこにどのような危険があるか、また、災害が起こった場合はどこに避難したら良いのかという情報を地図上にまとめたものがハザードマップです。住民がその地域のリスクを認識して、いざという時に迅速に避難できるよう、誰にでもわかりやすく作成されています。

ハザードマップにはいくつか種類があります

大雨、台風、地震など災害の種類によって起こり得る被害の状態が異なることから、ハザードマップ上に表示される内容もそれぞれ異なります。主なものとして以下のような種類があり、災害の種類別にそれぞれの危険区域や避難場所などを確認することができます。

■洪水ハザードマップ:
大雨などの影響で河川が氾濫して洪水が発生した場合に、被害を受けるおそれのある区域や予測される被害の程度が表示されているハザードマップです。
河川氾濫時に想定される浸水域、浸水深、避難場所、避難経路など、住民が迅速かつ適切に避難するのに必要な情報が表示されています。住んでいる地域の洪水ハザードマップを確認し、もし浸水の可能性がある地域に住んでいる場合は、災害時の避難場所や避難経路などをしっかりと把握しておくようにしましょう。

■内水(ないすい)ハザードマップ:
大雨などで内水氾濫が発生した場合に、被害が発生するおそれのある区域や予測される被害の程度が表示されているハザードマップです。
(内水氾濫というのは、雨量が市街地の雨水処理能力を超えて建物、土地、道路などが浸水する現象で、都市型水害とも呼ばれています。)
内水氾濫時に想定される浸水域、浸水深、避難場所、避難経路などが表示されます。
また、内水ハザードマップは、災害時の避難や誘導ガイドとしての役目だけではなく、地下室への止水板、土嚢等の設置、住民の自助、適正な土地の利用を促すことも目的として作成されています。

■土砂災害ハザードマップ:
大雨になったときに、土石流、がけ崩れ、地滑りなどの土砂災害による被害が想定される地域や避難情報が表示されているハザードマップです。
土石流・がけ崩れ・地すべりの発生危険地域、被害予測地点、土砂災害の種類、予測される被害拡大範囲と程度、避難経路と避難場所などが表示されています。
平成17年に土砂災害防止法が改正された後は、土砂災害の警戒区域や特別警戒区域を表示したハザードマップを作成し、地域住民に配布することが、各市区町村に義務付けられています。
台風や大雨などの災害によって土石流、がけ崩れ、地滑りなどが起こる可能性の高い危険箇所を住民に周知し、警戒区域に住んでいる住民が円滑に避難できることを目的としています。

■地震災害ハザードマップ:
将来的に発生することが予測される地震によって被害を受ける範囲などが表示されているハザードマップです。
地震発生時の被害範囲、建物被害予測、地盤の液状化リスクなどが表示されています。
揺れが激しいと想定される地域では、建物が大きなダメージを受ける可能性が高いため、必要に応じて耐震診断や耐震工事を検討する必要があります。

■火山防災ハザードマップ:
噴火や火山活動が活性化した場合に、噴石、火砕流、溶岩流、泥流、火山灰などによる被害を受けるおそれがある地域を表示したハザードマップです。
平成27年に施行された改正活火山法では、全国49火山周辺の23都道県と140市町村が火山災害警戒地域に指定されており、指定された自治体は、火山防災協議会の立ち上げと火山ハザードマップの作成が義務付けられています。
火山の噴火の度合いによっては、火山のある場所から離れている地域にも被害が出る可能性もあるため、火山がある地域の人は、火山ハザードマップをしっかりと確認しておくようにしましょう。

■津波ハザードマップ:
津波とは、地震などが原因で海水が大きな波になり、沿岸に打ち寄せられる現象のことで、津波が陸上へ押し寄せた場合の津波の高さ、第1波到達までの時間、浸水域や浸水深、避難場所と避難経路などを表示したハザードマップです。
平成24年施行の津波防災地域づくり法により、都道府県が津波被害の想定される地域を「津波災害警戒区域」に指定し、区域内の市区町村は、津波ハザードマップの作成と公表が義務付けられました。

■高潮ハザードマップ:
高潮とは、台風や発達した低気圧により高波やうねりが発生し、海面の高さが通常よりも高くなる現象のことで、海水の堤防を越えた浸水が想定される地域と浸水深など、高潮によって生じる被害を受けるおそれのある地域や被害の程度を表示したハザードマップです。
特に高潮が満潮の時間に重なると大きな被害が出る可能性があるため、高潮で浸水の恐れのある地域に住んでいる場合は、大雨や台風発生時には満潮の時刻も確認しておくことが大切です。
国土交通省は、平成16年に高潮対策や避難計画に関するマニュアルを作成し、全国の自治体に高潮ハザードマップの作成を促しています。

ハザードマップはどこで入手できる?

ハザードマップは、各市区町村が管轄区域のハザードマップを作成し、市区町村のウェブサイトに掲載したり、紙媒体として発行したりしています。紙媒体は市区町村役場で入手可能ですし、刊行物に掲載されている地域もあります。

また、国土交通省が運営する『ハザードマップポータルサイト』では、全国の市区町村が作成したハザードマップを確認することができます。
住んでいる地域だけでなく、子供の学校、夫または妻の職場、実家などがある地域の危険箇所や避難経路、避難場所など、災害時に自分や家族の命を守るための情報を入手したいときに便利なサイトです。
この『ハザードマップポータルサイト』は、【重ねるハザードマップ~災害リスク情報などを地図に重ねて表示~】と【わがまちハザードマップ~地域のハザードマップを入手する~】に分かれており、自分の知りたい情報に合わせて使い分けることができます。
重ねるハザードマップでは、洪水・土砂災害・高潮・津波のリスク情報、道路防災情報、土地の特徴・成り立ちなど、防災に役立つ災害リスク情報などを、地図や写真に自由に重ねて表示することができます。
わがまちハザードマップでは、全国の各市町村が作成したハザードマップを地図や災害種別から簡単に検索することができ、地域ごとの様々な種類のハザードマップを閲覧できます。

平時にはどちらのハザードマップを確認しても問題ありませんが、住んでいる地域以外の情報も得たいならウェブ上で確認するのが便利です。
また、紙媒体、またはウェブサイトからダウンロードしたハザードマップを持ち出し用防災セットに備えておくと、いざというときに安心です。

わが町京都市の状況は?

それでは実際に、当社のある京都市上京区のハザードマップを確認してみたいと思います。
今回は京都市が運営するサイト「京都市防災ポータルサイト」で調べてみます。
サイトにアクセスすると、トップページにある「ハザードマップ」の欄に「水害に関するマップ」「土砂災害に関するマップ」「地震に関するマップ」「その他」の4項目のボタンが表示されています。
まずは「水害に関するマップ」を確認してみましょう。
ボタンをクリックすると「水害ハザードマップ」のページが開きます。
次いで「水害ハザードマップ(PDF)」のボタンをクリックすると、各区名が出てきましたので、今回調べたい「上京区・中京区」をクリックします。
すると表示された水害ハザードマップがこちら↓↓↓(画像をクリックすると別画面で拡大表示されます。)

https://www.bousai.city.kyoto.lg.jp/cmsfiles/contents/0000000/143/02kamigyou_nakagyou.pdf

マップには、『 「鴨川・高野川」、「天神川」が氾濫した場合に想定される最大の浸水の深さなどを表しています。 』(鴨川・高野川の想定雨量 736mm/24h、天神川の想定雨量1,150mm/24h)との記載があります。
想定雨量とは「想定最大規模の降雨(1,000年に1度以上の確率)」のこと。水害ハザードマップは1,000年に1度の規模が想定されているようですが、これを見る限りでは、当社のある地域は洪水浸水の心配はなさそうなので、まずはひと安心!といえそうです。
また、1,000年に1度とまではいかなくとも、天気予報で“数10年に1度”の大雨の予報が発表される場合もあります。その場合にも、その予想降雨量(例えば200mm/24hなど)と想定雨量を比較することで、迫っている気象変化への対応、リスク回避のため準備等に役立てることができるのではないでしょうか。
なお、「京都市では,水害に関するハザードマップは水防法に基づく『洪水』のハザードマップのみを作成しておりますが,水防法に基づくもの基づかないものに関わらず『雨水出水(内水)』『高潮』『津波』に関するハザードマップは作成しておりません。」とのこと。確かに、京都市は大きな湖や海に面していませんので、津波や高潮に関する情報は不要ですね。

次に、「土砂災害に関するマップ」を確認してみます。
トップページに戻り「土砂災害に関するマップ」のボタンをクリックします。
すると「土砂災害ハザードマップ」のページが開きましたが、「※上京区,中京区,下京区,南区の全域には土砂災害(特別)警戒区域はありませんのでハザードマップを作成していません。」との記載が。
どうやら上京区では土砂災害の心配はなさそうです。

次に「地震に関するマップ」を確認してみます。
再度トップページに戻り「地震に関するマップ」のボタンをクリックします。
すると「地震ハザードマップ」のページが開きましたので、ページ内の「地震ハザードマップ」をクリックします。各区名が出てきましたので、調べたい「上京区」をクリックします。
すると表示された地震ハザードマップがこちら↓↓↓(画像をクリックすると別画面で拡大表示されます。)

https://www.bousai.city.kyoto.lg.jp/cmsfiles/contents/0000000/196/02kamigyojishin.pdf

マップの説明には、『京都市に被害をもたらすと想定される地震の中から、上京区に最も大きな被害をもたらすと想定されている「花折断層地震」の震度分布を示し、その被害と避難についてまとめたものです。』と書かれており、当社のある地域は<震度6強(はわないと動くことができない。飛ばされることもある。)>と想定されています。
その内容は…
・耐震性の低い木造建物は、傾くものや、倒れるものが多くなる。
・固定していない家具のほとんどが移動し、倒れるものが多くなる。
・大きな地割れが生じたり、大規模な地すべりや山の斜面の崩壊が発生することがある。
これはしっかりとした備えが必要です。
避難場所もいくつか表示されていますので、まずは一番近い避難所までの経路をしっかりと確認しておきたいと思います。

そもそも、ハザードマップは信頼できるのか?

このように、さまざまな自然災害に対してのリスクが想定されているハザードマップですが、冒頭でも述べた通り、実に6割以上の人がハザードマップを知らないというのが現実です。
ハザードマップの周知が進まない原因はいくつか考えられますが、そのひとつに住民が正確性を疑っていたり有用性を感じていなかったりということがあげられます。ハザードマップは「机上の空論」なのでしょうか?

ここに一つの事例があります。平成31年10月に日本列島に上陸した台風19号は、関東・東北地方を中心に深刻な被害をもたらしました。このとき、宮城県の阿武隈川や、長野県の千曲川、埼玉県の入間川、越辺川、都幾川、茨城県の那珂川などの氾濫地域において、いずれもハザードマップが想定していた浸水地域と、実際に被害のあった地域との重複率が高いことが、その後の調査で判明しました。このことから、「洪水ハザードマップ」の想定浸水域に関しては確度の高さがうかがえますが、このような検証を重ねることで、より一層の精度向上に期待したいところです。

しかし「地震ハザードマップ」に関しては、マップそのものに対して疑問を唱える学者もいます。アメリカ合衆国の地震学者で東京大学名誉教授のロバート・ジェームズ・ゲラー氏です。
氏は大前提として「地震を予知することは絶対にできない!」としたうえで、「ハザードマップは、地震学の粋を集めて作成されたということだが、役に立ったためしがない。過去の大地震といえば、昭和58年の日本海中部地震、平成5年の北海道南西沖地震、平成7年の阪神・淡路大震災、平成19年の新潟県中越沖地震、平成23年の東日本大震災、そして熊本地震(平成28年)だが、ことごとく予知できなかったし、ハザードマップで震源はいずれも色が薄く、確率が低いとされた地区だった。確率が8%なら92%は安心と受け止める人がいるかも知れない。そうなるとハザードマップという名の予知は“害悪ですらある”。予知できない以上、いたずらに人を惑わすハザードマップは廃止すべきだし、研究者は国民と政府に、特定の地域に言及することなく、全国で『想定外のリスクに備えること』を、勧告すべきでしょう」と訴えています。
(webサイト「現代ビジネス」2016.04.21の記事より抜粋)

災害リスクへの備えとして、ハザードマップは情報源のひとつとしてとても重要なものであることに間違いはありませんが、決してそれだけで万全とまではいかないようです。万が一のリスク回避の為にも、多角的に情報を入手して備えておく必要がありそうです。

今一度、ハザードマップを確認しておきましょう

いかがでしたでしょうか。
地域住民の人的被害を防ぎ、命を守るために作られるのがハザードマップです。
災害が多い日本では、絶対安全という地域はないように思われますし、気候変動もさらに進み、災害に関するリスクは高まる一方とも言えます。だからこそ、ハザードマップを防災対策の1つとして参考にしつつ、その意味を理解し地域の災害のリスクを把握しておくことで、万が一の災害でもスムーズに避難することや、購入を検討している土地のリスク想定が可能となるのではないでしょうか。
ぜひ、今一度、お住まいの地域やご家族に関係する地域のハザードマップを広げて確認しておきましょう。
また、当社では、物件をお探しする際には必ずハザードマップも確認しておりますのでご安心下さい!そのうえで、ご要望内容とマップの情報を天秤にかけながら総合的に検討し、お客様にとってベストなご提案を探って参ります。
不動産をお探しの際には、是非当社にご相談ください。

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