「付言事項」遺される家族へ送る最後の手紙(~遺言書のすゝめ2~)
映画やドラマの遺言状の一場面。遺言者が遺言書を作成するに至った心情や相続人への感謝の気持ち、遺産分けの理由、そして自身の葬儀方法などについて書き記された文章を、弁護士などが読み上げるのを見たことがあるかと思います。
この文章を遺言状の「付言事項(ふげんじこう)」と言います。
遺言書については、当社のブログ<「相続」が「争族」にならないために ~遺言書のすゝめ~>の中で、その基本的な知識についてご紹介させていただきました。そちらをご覧いただいた方の中には、“相続トラブルを起こさないための重要な手段の一つ”として、遺言書の重要性を感じていただけた方もいらっしゃると思います。
その一方で、“遺言書によって遺す財産を指定してしまうと、どうしても不公平になってしまうのが分かっているので、遺言書を書くのは気が引ける…”と感じている方がいらっしゃるかもしれません。
そのような場合には、今回お話しする付言事項を書き添えてみてはいかがでしょうか。
付言事項に法的効力を与えることはできませんが、遺言者が遺言書を作成するに至った心情や相続人への感謝の気持ちなどを記載することができますので、それにより、不公平な遺言であっても相続人の納得や理解が得られやすくなるというメリットがあるのです。
付言事項とはどのようなものなのか、そのメリットや具体例などを紹介していきたいと思います。
遺言書=「法的遺言事項」+「付言事項」
付言事項について詳しく見ていく前に、遺言書の基本構成について確認しておきましょう。
遺言書には基本的にはどのような内容でも書くことができますが、記載する内容により「法定遺言事項」と「付言事項」の二種類に分かれています。
「法定遺言事項」とは、“法律上の効力が生じる事項”のことで、民法その他の法律に規定されており、具体的に以下のようなものが該当します。
・相続分の指定(民法902条)
・遺産分割方法の指定(民法908条)
・推定相続人の廃除(民法893条)
・特別受益の持ち戻しの免除(民法903条3項)
・遺贈
・遺言認知(民法781条2項)
・遺言執行者の指定(民法1006条1項)
・祭祀承継者の指定(民法897条1項)
そして、「付言事項」とは“法定遺言事項以外の事項”ということになります。
付言事項を書くメリット
法定遺言事項でない事柄を遺言書に記載しても、法的効果は生じません。仮に遺言書に記載されていたとしても、遺言としての法的効力は生じないことになります。
つまり、遺言書に付言事項をいくら記載しても、それ自体には法的拘束力はなく、付言事項に従うかどうかは相続人の意思に委ねられることになります。そのため「付言事項を記載することには意味がないのでは?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、法定遺言事項だけを記載した遺言書では、遺言者が遺言書を作成した経緯や気持ちを知ることができません。ただ単に、遺産の分け方のみを書いている遺言の場合、遺言内容が特定の相続人にとって不公平な内容であれば、“遺留分を侵害された” “内容に不満がある”といった具合に、それによって不利益を被る相続人から不平不満が出てくることも考えられます。
そうなると、後に相続人同士で争いに発展する可能性がでてきます。遺言者と相続人間で生前にしっかりと話し合いをしていたのであればともかく、遺言者の死後に初めてその内容を知った相続人はどのように思うでしょうか。
そのような事態を避けるためにも、遺産分けの理由を付言事項として書いておくことはとても有効的な手段になります。付言事項で遺言者が遺言書を作成するに至った心情や相続人への感謝の気持ちなどを記載することによって、不公平な遺言であっても相続人の納得や理解が得られやすくなるのです。しっかりと遺言者の考えが書いてあれば、受け取る側の印象はだいぶ変わってきます。多少は不利益を受ける相続人でも納得してくれることでしょう。
付言事項には、「遺言書の内容に従った円滑な相続の実現」というメリットが期待できるのです。
どのようなことを書いたらよいのか
遺言には、何を書いても問題ありません。法律的には意味のない家族へのメッセージも、遺言者である本人にとっては大切であることに変わりはありません。
例えば、「○○の面倒を頼む」「みんな仲良くね」「今まで本当にありがとう」など、遺言を書くにあたっての心境などを付言事項として書き残しておくのもよいでしょう。
さらに、「太郎・太郎の妻〇〇さんには、今まで私たちを見守ってくれて大変感謝しています。特に晩年は苦労を掛けました。〇〇さんへの感謝の気持ちも込めて、少しですが多く財産を残させてもらいます。次郎が家族皆で帰省してくれる事、いつも楽しみにしていました。ありがとう。財産を均等に分けてあげられず大変申し訳ないが、私の意図するところを是非、理解してくれるよう願います。」といった具合に、想いを伝えるとともに財産の分け方が記されていれば、相続人の心情としても納得しやすい状況を作る事ができます。
では実際には、どのようなことが付言事項として書かれているのでしょうか。
一般的な内容として、以下にいくつか挙げてみました。
(1)遺言を作成するに至った趣旨
遺言を作成するに至った趣旨や家族への感謝の気持ちなどは、付言事項として書くことができます。不平等に見えるような遺言書を残す場合であっても、そのような遺言を作成するに至った趣旨などを遺言書で丁寧に述べておくことによって、相続人にその趣旨を理解してもらうことが可能になります。結果として、相続人同士での無用な紛争を予防できる可能性があるでしょう。
(2)遺留分侵害額請求権の行使の自粛
相続の際には、一部の相続人に対して、「支援の必要がある」などの理由で他の相続人の遺留分を侵害する程度に手厚く遺産を相続させようとすることがあります。
このような場合には、遺言書を作成するに至った事情を説明し、遺留分を侵害される方の相続人に対して、遺留分侵害額請求権の行使の自粛を求めるために付言事項を書くことが望ましいでしょう。
*他の相続人に対して遺留分侵害額請求権を行使させない方法としては、「相続人の廃除」もあります。しかし、実務上、相続人の廃除をすることができるのは、被相続人に対する虐待や重大な侮辱、著しい非行があった場合などであり、非常に限定された場合にしか相続人を廃除することができません。相続人を廃除できない場合には、法的拘束力がないとはいえ、付言事項によって遺留分侵害額請求権の行使の自粛を求めていくことになります。
(3)ペットの世話
最近では、自分が亡くなった後のペットの世話を相続人などに頼む方法として付言事項が利用されることも増えています。
ペットは、法律上、「動産」として扱われるため、遺産分割の対象となる相続財産に含まれることになります。そのため、「誰がペットを取得するか(引き取るか)」については、法定遺言事項となります。しかし、ペットの”世話の仕方”に関する部分については、法定遺言事項には含まれませんので付言事項となります。確実にペットの世話を頼みたいと考えるなら、ペットの世話を依頼しようとする人に事前に確認をとって了解を得たうえで、付言事項を残すのが望ましいといえるでしょう。
(4)葬儀方法についての希望
自分の死亡の葬儀方法についての希望は、法定遺言事項には含まれませんので付言事項となります。遺言書が有効に作成されていたとしても、付言事項は相続人に対する法的拘束力はありませんが、通常は相続人も「遺言者の生前の意思をできる限り尊重したい」と考えるでしょう。
葬儀方法についての希望がある場合には、これを明確化するために遺言書で定めておくことができるのです。
*葬儀費用についての希望を遺言書に残す場合には、自分の死後すぐに相続人に遺言書を発見・開封してもらう必要があります。しかし、遺言書を自筆証書遺言で作成した場合には、検認手続きが必要となり、時間がかかってしまいますので、その場合には公正証書遺言で作成しておくことをおすすめします。なお、自筆証書遺言書保管制度を利用した場合には、検認手続きは不要となります。
さらに具体的な文例として、三菱UFJ信託銀行のHP内でもいくつか紹介されています。
・「妻に多くの財産を相続させる」
・「同居の家族に多く相続させる」
・「(子どもがいないケース)夫婦相互遺言」
などの具体例が掲載されていますので、参考にされてはいかがでしょうか。
付言事項を書く場合の注意点
また、実際に付言事項を書くにあたって、以下のことに注意いたしましょう。
(1)否定的なことは書かないようにしましょう
長い人生を送っていると、家族に対しての不満や愚痴などもあるかもしれません。しかし、遺言書には、家族への不満や愚痴といった否定的な内容は書かないようにしましょう。
否定的な内容が書かれていると、それを読んだ相続人は、不快な気持ちになります。「遺言者から嫌われていた」と感じると、相続手続きに対しても協力的ではなくなってしまい、スムーズな遺産分割を実現することが困難になってしまうおそれがあるのです。遺言書には、家族への感謝などを中心に記載するようにいたしましょう。
(2)遺言書作成の経緯は必ず書きましょう
遺言書を作成するということは、法定相続とは異なる方法での分割を実現しようとする場合です。法定相続分どおりの分割割合でなかったり、場合によっては、遺留分を侵害する内容であったりします。
そのような内容の遺言書も有効ですが、作成の経緯を知らされていなければ、不公平な遺産分割を押し付けられる相続人の納得を得ることができません。「どんな思いで遺言書を残したか」ということを丁寧に記載することによって、相続人全員の理解と納得を得られることが期待できるのです。
(3)付言事項を書きすぎないようにしましょう
付言事項は自由に書くことができるため、相続人に対して希望がたくさんある場合には、あれもこれも詰め込んでしまい、付言事項の分量が多くなってしまうことがあります。しかし、付言事項が多くなりすぎると、遺言書の趣旨が曖昧になってしまい、ほんとうに伝えたい事項が伝わらないおそれがあります。付言事項は、遺言書に記載したとしても法的拘束力がありませんので、遺言書に書くものは、最も伝えたい事項だけにし、その他の事項は、エンディングノートなど、遺言書以外の方法で伝えるようにすると宜しいのではないでしょうか。
なお、付言事項は遺言の前文でも後文でもどちらに書いても大丈夫ですが、通常は法的効力が生じる部分と付言事項をはっきり分けて記載するため、最後に添えることが一般的なようです。
遺言書は遺された家族への『最後の手紙』
いかがでしたでしょうか。
遺言書は、単に財産分割を指定する紙ではなく、遺された家族が目にする被相続人からの『最後の手紙』です。遺言書があれば必ずしも揉めないとは言い切れませんが、遺言書は、残された家族が揉めずに今後の生活を送るためにとても大きな役割を担っています。
そして、全ての財産は全員平等に分けられるとは限りませんので、相続人の中には“なんであいつの方が多いんだ”と思う方もいらっしゃるでしょう。そんな時に有効になるのが “付言事項を書く事” です。付言事項を書いておくことによって、よりスムーズな遺言の実現が期待できるのです。
これから遺言の作成を検討されている方は、付言事項も含めて遺言書の内容を検討してみてはいかがでしょうか。
しかし、「遺言書を作成したいけれど、何から始めていいかわからない…」と迷われる時は、いちど小林工務店にご相談ください。
当社は、財産管理の全国ネットワークである「株式会社 財産ドック」の「京都上京センター」としての機能も有しており、司法書士、税理士、弁護士との連携を図りながら、皆様からのご相談にワンストップでお応えすることが可能です!
遺されたご家族がトラブルなく円満に相続を行えるためにも、是非ご相談ください。