相続人が音信不通⁉行方不明⁉ その時の対処法は?
遺産相続という言葉は耳にすることがあっても、相続の手続きをされた方はそれほど多くおられないでしょう。また、あったとしても何度も経験するものではありません。そのような理由から、いざ相続が発生した際に何から手続きを進めたらよいのか、不安に感じる方も多いのではないでしょうか。
実際、相続ではやらなければならない手続きや確認事項がたくさんあり、法的な期限も定められています。具体的には「死亡届の提出」「遺言書の有無を確認」「財産のリストの作成」「相続登記」等々が挙げられますが、「相続人の確定」もその中の一つです。
今回はこの「相続人の確定」、特に“音信不通の相続人がいる場合の対処方法”について、少し掘り下げてお話ししたいと思います。
(尚、遺言書の基本的な知識については、ブログ『「相続」が「争族」にならないために ~遺言書のすゝめ~』で、相続登記に関してはブログ『相続した不動産の登記、お忘れでないですか?「相続登記の申請の義務化」が始まります。』で紹介しておりますので参照ください。)
どうして「相続人の確定」が必要なのか
それではなぜ、相続人を確定する必要があるのでしょうか。
それは、相続財産の分け方についての話し合いをする「遺産分割協議※」は法定相続人“全員”で行う必要があり、また、相続登記においても法定相続人“全員”が署名(又は記名)し、実印にて捺印した遺産分割協議書と印鑑証明書の添付が必要になるからです。つまり、音信不通になっている相続人、行方不明の相続人がいる場合には、遺産分割協議をすることも相続登記もできなくなってしまうのです。
※遺産分割協議: 遺産分割協議とは、相続が発生した際に、共同相続人全員で遺産の分け方についての話し合いをすることで、相続人全員で合意すれば、法定相続分や遺言の内容と異なる割合で相続分を決めることも可能です。 |
また、共有名義の不動産の場合、仮に売却しようとしても、共有名義人全員の同意が得られなければ売却することもできず、相続の際にも遺産を分割することができないため、その対応をめぐるトラブルへと繋がってしまう可能性もあるのです。
(ブログ『「不動産の共有」はお得?それともトラブルの火種? メリットとデメリットについて考える』参照)
もしも、相続人の中に音信不通の人などがいる場合はどうしたらよいのでしょうか?
いくつかのケースを例に挙げて、その対応策を確認してみましょう。
ケース1:住所や連絡先が分からない場合
相続人の住所や連絡先が分からない場合には、まず“戸籍の附票”を取得してみます。
戸籍の附票とは、住所地の移動の履歴をまとめたもので、戸籍とともに管理されており、戸籍の附票の写しは、本籍地の市区町村の役所で取得できます。(本籍地が遠方の場合、郵便で請求できる場合もあり。)
戸籍が作られてから現在に至るまでの住所が記録されていますので、住所を確認して手紙を出したり、現地を訪ねてみたりすることで連絡が取れるかもしれません。
他にも、親戚や共通の友人・知人に連絡先を聞いたり、FacebookやインスタグラムなどのSNSで検索したりする方法もあります。
また、士業※の専門家は依頼により職権で住民票等を取得し、調査する事も可能ですので、相談するのも一つの方法です。
※「○○士」と呼ばれる専門性の高い国家資格の中でも、弁護士、司法書士、土地家屋調査士、税理士、社会保険労務士、弁理士、海事代理士、行政書士(8士業と呼ばれます)に委任状ではなく職務上請求書を使うことによって戸籍謄本・住民票を取得することが認められています。 |
ケース2:連絡しても応答してもらえない場合
相続人の連絡先が分かり、連絡しても応答してもらえない、または話し合いを拒否されてしまう場合には、家庭裁判所に“遺産分割調停”※を申し立てる、という手段があります。
遺産分割調停とは、家庭裁判所の裁判官と調停委員に間をとりもってもらい、当事者同士の話し合いで遺産分割の解決を模索する方法で、遺産分割協議を行ったものの遺産分割方法について意見がまとまらなかった場合に利用できる制度です。
例えば、父親が亡くなって長男A(兄)と長女B(妹)が相続人になったケースで考えてみましょう。
遺産は父親が住んでいた自宅のみで、二人で遺産分割協議を始めました。長女Bが「遺産は半分ずつ分けるべき。家を売ってその売却金を平等に分けたい。」と提案しますが、長男Aは「自分が長男だから父の自宅は自分が継ぐべき!」と主張して譲らず、長女Bの説得に全く聞く耳を持ちません。長男Aが説得に応じないため、長女Bは遺産分割調停を申し立てることに。調停で「Aさんの主張は法的に通らないので、遺産は法定相続分に従って分けましょう。」と調停委員から法的根拠を基に説得され、ようやく長男Aも遺産分割に応じることになりました。
このように、相続人同士だけの話し合いでは解決できなかったことを、第三者である調停委員から客観的な助言をもらいながら解決を図るのが遺産分割調停です。
※遺産分割調停: 被相続人が亡くなり,その遺産の分割について相続人の間で話合いがつかない場合には家庭裁判所の遺産分割の調停又は審判の手続を利用することができます。調停手続を利用する場合は,遺産分割調停事件として申し立てます。この調停は,相続人のうちの1人もしくは何人かが他の相続人全員を相手方として申し立てるものです。 調停手続では,当事者双方から事情を聴いたり,必要に応じて資料等を提出してもらったり,遺産について鑑定を行うなどして事情をよく把握したうえで,各当事者がそれぞれどのような分割方法を希望しているか意向を聴取し,解決案を提示したり,解決のために必要な助言をしたり,合意を目指し話合いが進められます。 なお,話合いがまとまらず調停が不成立になった場合には自動的に審判手続が開始され,裁判官が,遺産に属する物又は権利の種類及び性質その他一切の事情を考慮して,審判をすることになります。 (最高裁判所HPより) |
ケース3:完全に行方不明の場合
相続人がどこで暮らしているかも分からず、連絡手段もない状態の場合には、他の相続人が家庭裁判所に対して“不在者財産管理人選任”※ を申し立てる、という手段があります。(民法第25 条「不在者財産管理制度」)
不在者財産管理人が選任されると、その管理人が不在相続人の代理人として他の相続人と遺産分割協議を行います。そして最終的に協議を成立させるためには家庭裁判所の許可も必要となります。
ここで注意しなければならないのは、不在者財産管理制度は「不在者の財産を保全し、不在者の利益を保護するための制度」である、という点です。遺産分割協議のときには、不在者の利益を保護するため法定相続分以上を取得する内容であることが必要になり、仮に不在者の取得分が法定相続分よりも少ない場合には家庭裁判所が許可しない可能性もあります。申立人が不動産など特定の財産を自分が取得することを目的として不在者財産管理人選任の申立てを行っても、その目的を達する内容の遺産分割協議が成立するとは限らないこともあるのです。
※不在者財産管理人選任: 従来の住所又は居所を去り,容易に戻る見込みのない者(不在者)に財産管理人がいない場合に,家庭裁判所は,申立てにより,不在者自身や不在者の財産について利害関係を有する第三者の利益を保護するため,財産管理人選任等の処分を行うことができます。 このようにして選任された不在者財産管理人は,不在者の財産を管理,保存するほか,家庭裁判所の権限外行為許可を得た上で,不在者に代わって,遺産分割,不動産の売却等を行うことができます。 (最高裁判所HPより) |
ケース4:長期間にわたって行方不明の場合
相続人の生死が長期間にわたって不明の場合には“失踪宣告”※制度を使う、という手段があります。
失踪宣告とは、生死不明の者に対して,法律上死亡したものとみなす効果を生じさせる制度で、失踪宣告がなされると、行方不明の相続人(以下「不明相続人」という)は「死亡」したものとして遺産分割協議を行うことになります。不在者財産管理制度とは異なり、失踪宣告がされると死亡したとみなされるので、その不明相続人の相続も発生することになり、不明相続人に配偶者、子供がいない場合は、その他の相続人で遺産分割協議を行うことが可能になります。この分割協議には不在者財産管理制度のような家庭裁判所の許可も必要ないので、完全に有効な分割協議を行うことができます。
ただし、不明相続人に配偶者や子供などの法定相続人がいた場合は注意が必要です。それは、不明相続人の配偶者とその子供は不明相続人の相続人としての地位を受け継ぐこととなり、遺産分割は不明相続人の配偶者や子供を含めて分割協議を行わなければならなくなるからです。つまり、失踪宣告の場合には、行方不明の相続人についても相続が発生するので、親族関係によっては分割協議の当事者が増えることになる点に注意が必要です。
※失踪宣告: 不在者(従来の住所又は居所を去り,容易に戻る見込みのない者)につき,その生死が7年間明らかでないとき(普通失踪),又は戦争,船舶の沈没,震災などの死亡の原因となる危難に遭遇しその危難が去った後その生死が1年間明らかでないとき(危難失踪)は,家庭裁判所は,申立てにより,失踪宣告をすることができます。 (最高裁判所HPより) |
相続の話題はご家族にとって重要で前向きなこと
いかがでしたでしょうか。
今回は、相続した時にやらなければならないことのひとつ「相続人の確定」、特に“音信不通の相続人がいる場合の対処方法”について紹介いたしました。
もし心当たりのある方がいらっしゃいましたら、いざその時を迎えて慌てる前に、相続人の確認だけでも進めておくのも良いかもしれません。
相続の話をすることは決してネガティブなことではありません。
「まだまだ先のこと」「元気だから心配ない」「子供たちが好きなようにして欲しい」とお考えの方も多いのですが、大切な資産についてお話されることはご家族にとって重要で前向きなことです。
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